文化を受け継ぐことは、島の暮らしを守ること。~石野正幸さん(後編)
2021年10月6日 更新
不動産のプロに聞く。「コーガ石の家は残せますか?」
空き家を活かしていくことが、コーガ石の家を守ること。そう信じて私たち新島OIGIEはこの5年間、活動を続けてきた。空き家を掃除してみたり。空き家を実際に借りて活用してみたり。家をどうにかしたいという人たちの橋わたしをしてみたり。
それで幸運にも家がよみがえるのは嬉しいことだけど、家を新しく快適にするためには古いコーガ石が障害になってしまうケースも目の当たりにする。コーガ石の家を守りたくて空き家に関わっているのに、空き家を活用しようとするとコーガ石が邪魔をするなんて、そんな皮肉な話あるだろうか。
コーガ石の家を守ることは、もしかして島で暮らす人のためにならないのだろうか?そんな疑問が湧いている結成5周年の今、改めてコーガ石の家について考えてみるインタビュー企画。新島唯一の不動産業者である石野正幸さんにお話しをうかがう後編です。
<今回のゲスト>石野正幸(いしの・まさゆき)さん
新島村若郷地区出身。東京の不動産会社で10年間勤務した後、17年前に新島へUターン。現在は(株)協同に勤務し、新島唯一の宅地建物取引士として島内物件の売買、賃貸、改修、建築など、不動産にまつわる相談事を一手に引き受ける。また奥様と立ち上げた㈱グリーンデメテルでは特産野菜の生産販売や加工品製造を手がけるほか、休耕地の管理を積極的に行うなど農業の活性化に心血を注ぐ。一見荒っぽく見えて実は世話好き、笑顔がチャーミングな島のおじさん。
ズバリ、コーガ石を残していく方法はありますか?
――新島OIGIEは活動を始めて5年、法人になって3年目に入ったんですが、そもそもOIGIEはコーガ石の建物を保全するという目標が土台にある組織なんですよね。それで、コーガを保全しようとすると、どうしても空き家の問題にぶつかってしまう。だったら空き家を利活用しましょうということでつきつめていった結果、すごく矛盾が生まれるというか、コーガ保全と空き家の利活用が正反対のものになっている気がしているんです。
また、コーガ石の建造物を保存したいという方々と交流してきたんですが、島外からわざわざ石の家を掃除しに来られたり、文化財保存に向けて村と交渉したりしても、なかなか形にならないんですよね。コーガ石文化を大切にすることを、趣味として続けるのはいいと思うんですよ、でも本当にこのままでいいのかなと思って…。
新島村の中で土地利用や地域環境保全、景観保全のちゃんとした計画を立てないと、進まないことだとオレは思う。だって、これから「コーガ石を建材として使って家を建てよう」という人はいないじゃない。昔、建材として使ってきた軽くて柔らかいコーガ石はほとんど採れないわけだし。今でも取り扱っている業者はあるけど、新島村としてはコーガ石事業は閉鎖されてしまったわけだから、大量生産もないわけでしょう。
そうなったとき、これから新規でコーガ石を使おうとすると、塀だとか内装材の一部だとか、そういったものになるよね。そういうときに村として「石をこういう風に使うなら補助しますよ」といった仕組みを考えない限り、コーガ石は誰も使わないんだよ。しかも昔と違って今は、コーガ石のような天然石の石塀造りには建築基準法で制限があって、1.2m以上積んじゃいけないの。厚さや幅も規格が決まっていて、いろんな条件をクリアしないとできないわけ。
今使わないものは、未来に残っていかない
やっぱり今後も利用されないものは、残っていかないんじゃないかな。本気でコーガ石を残したいなら、絶対どこかで利用しないといけないと思うんだよ。塀がダメだったら、道路のある一部分の敷石に使おうとか、そういうことまで考えていかないとダメだと思う。
コーガ石事業をたたんでしまった役場は、今後コーガ石について積極的に取り組もうとは考えないんじゃないかな。コーガ石保全が遅々として進まないのは、そういうことだと思うよ。ただ、まったくやり方がないわけじゃなくて、観光事業の一環としてコーガ石保全事業とタイアップして「この地域はコーガ石を残しましょう」という風に観光とセットでやれば、すごく面白い事業になるとオレは思う。
コーガ石って一定のファンがいるからさ。そういう人たちに観光客として島に来てもらって、泊まってもらってってすれば、人は集まると思うんだよね。観光協会がお客さんを呼ぶためにコーガ石ツアーみたいなのを企画して、コーガ石保全をアクティビティの1つとして取り入れてみたら面白いんじゃないかな。
島の文化を残すには、産業が盛り上がらないと
――コーガ石保全については模索が続いていますが、新島OIGIEのやりたいことって昔から変わっていなくて。島の文化ってカッコいい、できるだけ残して受け継いでいきたいという思いが一番強いんですよね。
でも、その思いで活動してきた結果、気づけばいろいろな分野に首を突っ込むことになっていて。「オイギーって何やってるんですか?」とよく聞かれるんですが、答えに困ることがあります(笑)
文化を引き継いでいくためにも、今の生活が残っていかないとどうにもならないじゃない。そういうなかで、仕事だとか住む家とか、そういうことが必ず必要になってくる。生活の基本だからね。それが今、危機的な状況にあるわけだから、OIGIEとしてはそういうところから始めて、新島のよさや新島の文化をみんなに引き継いでもらえるような活動を続けるってことでいいんじゃないのかな。
それは今、島にいる人に限らずIターンやUターンで島に移住してくる人とも同じ思いを共有して、新島で幸せに暮らしていけるような文化を継承していきたいって、そういうことなんでしょ?
――その通りです(笑)
オレだってそう思うからね。オレは不動産を事業としてやっているけど、やっぱりいろいろな人に新島に関わってもらったり、住んでもらったりしてほしいし、関係人口と言われる人たちには新島のことをよく思ってもらいたい。島の文化も理解してもらいたい。そういう人たちがよりよく、楽しく定住していけるような仕組みを作っていくのが、オレの役割だと思っているから。
OIGIEを支援しているのもそうだし、他にもそういう活動をしたいという人がいれば協力したいと思っているしさ。オレは仕組みづくりを手伝って、できたものをみんなで実行できればと思うよ。
文化の継承っていうと大きい話みたいに聞こえるけど、そんな大したことじゃないと思っているんだよ。すごくシンプルなこと。だから難しい。だって、関わることが多岐に渡るんだもん。この目標を達成するには、あれもこれも全部やらないとたどり着かないじゃない?
例えば農協がなぜ観光協会の会員になっているかというと、農協の売上を上げるためには観光客がたくさん来て、新島で買い物をしてくれるのが一番いいわけですよ。だから、観光産業をよくするために会員になっている。それと同じで、全部はつながっているんですよ。OIGIEも新島の文化を次世代に引き継ぎたい、将来に渡って残したいっていう気持ちがあるなら、いろんなことをして、いろんな人とつきあって、いろんな事業を作らないといけないよね。
オレは農業委員をやっているけど、新島の家にある苗場は文化だと思っているよ。家の敷地にある畑で野菜を作って自給自足をしてきたというのは、新島の大切な文化だから残していきたいし、畑も保全していかなきゃいけないし。文化を残すには、いろんなことをやるしかないんじゃない?