雄雌の百足獅子が木遣りに合わせて舞う、新島独特の獅子舞を見逃すな!
新島を代表する伝統芸能のひとつ、獅子木遣り(ししぎやり)。島の総鎮守・十三社神社に古くから伝わり、神社の遷宮や村の名称変更、改元など、国や村で大きなできごとがある時にだけ披露される、特別な獅子舞だ。
平成19年を最後に披露されていなかった獅子木遣りが、2019年12月8日の十三社神社例大祭で久しぶりに披露されることになった。新天皇の即位と令和改元を祝って行われるもので、獅子が出るのはじつに12年ぶりのこと。「今回を逃すと、次はいつ見られるかわからない」ということもあり、お披露目前夜の新島は今、静かな興奮に包まれている。
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獅子舞というと、獅子頭をかぶった舞手が祭り囃子に合わせて軽快に舞う姿がイメージされるが、新島の場合は一風、というかかなり、変わっている。まず獅子。獅子舞は1人または2人で舞うのが一般的だが、新島の獅子はじつに5人1組で舞う。
それから、お囃子。獅子木遣りには、獅子舞につきものの笛や太鼓といった祭り囃子が一切なく、かわりに「音頭衆」と呼ばれる歌い手が木遣り唄を歌う。
大きな木材を運ぶ時など大勢で息を合わせて作業する際に歌う労働歌や、おめでたい席での祝儀歌として親しまれた、伝統の木遣り唄。その調子に合わせて、ムカデのようにたくさんの足を持つオスとメス2頭の獅子が村を練り歩くというスタイルは、全国的にも非常に珍しい芸能で、東京都の無形文化財にも指定されている。
スタイルも珍しければ、希少価値という意味でも獅子木遣りはとても珍しい。なにしろこの10年以上、誰もその姿を見ていないのだ。観客にとって「なかなか見られない」ということは、演じ手にとっては「なかなか披露するチャンスがない」ということでもある。5人で動きを揃えて獅子を動かすことも、独特の節回しが求められる木遣りを歌うことも、一朝一夕でできる芸当ではない。けれど、いつ披露できるのかわからないまま稽古だけを積み重ねるのは、想像以上にむずかしいことだ。
貴重な島の芸能をどうにか引き継いでいこうと消防団が動いたり、保存会が結成されたりしたものの、次第に稽古が行われなくなり、島の過疎化も手伝って獅子木遣りは消滅寸前の状態に。今では獅子木遣りを知らない島の若手も少なくない。
それだけに「12年ぶりに獅子が出るらしい」という噂は、あっという間に島じゅうで話題になった。昨年から新メンバーを募って稽古が再開され、新体制による「新島十三社神社獅子木遣保存会」が結成。下は高校生、上は70代まで、のべ40名を超える島の男衆が夜な夜な稽古を重ね、いよいよ12月8日にその勇姿を披露する。
Contents
<獅子木遣り見学ポイント>
ふだんは神社の奥の院に眠っている獅子頭が境内に出され、お祓いを行う「お宮出し」は、午後1時ごろ。その後、鈴門と呼ばれる山門前でオスとメス2頭の獅子に魂が吹き込まれる「鈴門出し」が行われる。
音頭衆と呼ばれる木遣り隊と、胴柄衆と呼ばれる獅子隊が二の鳥居の前に整列し、宮司の合図で獅子に魂が入る。木遣りに合わせて獅子がゆっくりと舞を披露しながら、十三灯と呼ばれるポイントまで進む。このとき、神の化身である獅子に頭をかまれた人は無病息災、1年を幸せに過ごせるといわれているので、ぜひチャンスをねらおう。
続いて、2頭の獅子はそのまま宮司の家に入って舞を披露。宮司宅を出た獅子と音頭衆は参道から大鳥居を出て新島小学校横の道を進み、郵便局の角を曲がって新島村役場へ。このとき獅子頭を抱えて先頭を歩く、獅子木遣りの未来を担うフレッシュな高校生メンバーにも注目。
庁舎前広場に入った獅子と音頭衆は、村長の前で歌と舞を披露する。最も広いスペースで披露される、獅子木遣りのクライマックスだ。庁舎前に座る村長ら重役に少しずつ近づき、最後は村長の膝の上に寝込む。威嚇するような、甘えるような獅子の複雑な仕草は、なんともいえない愛らしさに満ちている。
舞が終わると、獅子と音頭衆は来た道を戻り、再び十三社神社の境内へ。十三灯周辺で最後の舞が披露される。のべ2時間ほどの行程、しかと見届けましょう!
<12月9日訂正>
記事中にて「獅子木遣りのお披露目は13年ぶり」と紹介いたしましたが、正しくは「12年ぶり」であることが判明し、お詫びして訂正いたします。
最後の記録につきましては、新島十三社神社獅子木遣り保存会に確認をいただいておりましたが、公開後に複数の方より「12年ぶりの間違いではないか」とのご指摘をいただき、改めて村の資料を調査しました。その結果、「平成19年の新島十三社神社例大祭にて大鳥居まで獅子を出した」という記録があり、12年ぶりということがわかりました。
なにぶん10年以上のブランクがあるため、情報が錯綜している部分もあるかと思います。ご指摘くださった方、情報提供くださった方、ありがとうございました。