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少数精鋭で快進撃!新島高校和太鼓部のヒミツ

  • レポート

Posted on 2019年12月22日

4年連続銀賞、計10回の個人賞を獲得する背景に何が?

新島で生活していると「離島ハンデ」という言葉をよく耳にする。人がいない、病院がない、仕事がない、手に入るものが限られている。「内地とつながっていない」という現実は、日常のさまざまな場面で壁となって立ちはだかる。

それは島で学ぶ子どもたちにとっても同じだ。島では習いごとやスポーツクラブ、学習塾などが少なく、大会や発表会など腕を競うチャンスも限られる。学校の部活では施設に限りがあり、練習試合ひとつに莫大な遠征費がかかってしまう。離島の野球部が甲子園に出る例がほとんどないことからも、その厳しさがわかるだろう。

そんな離島ハンデをものともせず、新島で活動しながらめざましい活躍を続けているのが都立新島高校和太鼓部だ。部員はわずか10名前後と、都内でも屈指の少人数チーム。それでいて、全国一の激戦区として知られる東京都大会で4年連続銀賞を受賞し、個人賞にいたってはトータル10回も受賞するなど「新島に太鼓部あり」と一目置かれる存在になっている。

2019年11月24日に開催された第28回東京都高等学校文化祭郷土芸能部門中央大会(以下・都大会)でも銀賞を受賞、2年生部員が個人賞を受賞した。そんな大会を終えたばかりの新高和太鼓部に、大会の感想や強さのヒミツについて取材した。

都大会に出場した和太鼓部メンバー

ポテンシャルを開花させる「横打ち」スタイル

八丈島の八丈太鼓や三宅島の三宅太鼓(三宅神着神輿太鼓)、青ヶ島の環住太鼓に代表されるように、なんとなく「伊豆諸島といえば太鼓」というイメージを持つ人は多い。ところが、じつは新島には八丈や三宅のように日々の暮らしに溶け込んだ太鼓文化は存在していなかった。そんな新島の高校で、太鼓部の前身である太鼓同好会が誕生したのは今から21年前、1998年のこと。

当時、新島には風神組と呼ばれる初の和太鼓グループが誕生し、島の新しい芸能として島内外で活発に演奏活動を始めた時期。その勢いにのって、新島高校でも太鼓好きの有志によって同好会を結成。少人数ながら着実に腕を磨き、都大会で個人賞を受賞するなど実績を重ねてきた。チームとして脚光を浴びるようになったのは、和太鼓奏者・内海いっこう氏の指導をあおぐようになり、今では新高の代名詞にもなっている「横打ち」を取り入れてからだ。

初めて団体で銀賞を受賞した2016年のメンバーと小澤コーチ(左前)。後方右から2番目の宮川英都さんは現在サブコーチとして後輩の指導にあたっている

 

タテに据え置きされた太鼓に対して、バチを上から下へ垂直に振り下ろすのが、一般的な太鼓の打法。それに対して横打ちは太鼓を横に設置し、地面スレスレのところでバチを斜めに振り下ろす打法だ。大きく開脚して重心を低く落とす、その姿勢を保つだけでも下半身に相当の負荷がかかる。その状態でバチを横にむかって打ち続けるには、筋力やスタミナ、バランス感覚などさまざまな力が求められる。プロでも限られた人にしかできない、きわめて難易度の高い打ち方だ。

低い姿勢で斜め上から太鼓面に向かってバチを振り下ろす「横打ち」。重心がぶれないよう下半身を固定しながら、腕を横に大きく動かす高難度の打法だ

 

バチを上下に振り下ろす一般的な打ち方と違い、横打ちは腕に力が入りづらい。この打法をするために走り込みや筋トレが欠かせないという。奥で打っているのは個人賞を受賞した岩切拓巳くん

 

「内海いっこうさんは、たぐい稀なる横打ちの名手。そんな内海さんの横打ちをみんなに体験してほしかった」というのは、コーチである小澤里江さん。太鼓部の創立メンバーで、プロの和太鼓奏者でもある彼女が、それまで新島になかった横打ちの導入を提案した張本人だ。

「横打ちは、しんどい。でもそのしんどさに耐えて打ち続けることでしか、見えない景色があると思うんです。島の子はふだん穏やかに暮らしているので、追い詰められるという経験が乏しい。だからこそ、10代という未完成の時期に自分の殻を打ち破る経験をしてくれたらいいなと。それに島の厳しい自然環境の中で生き、内に熱いものを秘めた島の子の気質にも合っていると感じた」とコーチはいう。

島だから、できる演奏がある

そんなコーチの思いに気づいて…はいないようだが、1年生メンバーは「太鼓部に入るなら横打ちをやるもんだと思っていた」と口々に言う。それだけ横打ちは太鼓部に根付いている証拠。今年の都大会でも横打ちの迫力を最大限に生かした構成をみんなで考え、11名の部員全員参加で出場することを決めたという。とことん話して、みんなで決める。それが新高スタイルだ。

練馬文化センターホールで行われた大会の出場チーム25組中、新島高校の出番は最終ブロックの22番手。全国大会で上位に入る有名校がひしめきあう、終盤の強豪枠だ。都内の太鼓部は設備、人材、経験などで恵まれている学校が多い。なかには出場者だけで40名を超えるチームもあり、部員層の厚さがうかがえる。

けれど、数が多いほど良い演奏になるとは限らないのが、和太鼓という楽器の面白いところだ。少人数でも、音がそろえば美しい。逆に大人数の演奏は爆音にまぎれて、個々の技術や魅力が埋れやすくなる。さまざまな曲、打法、流派の中から何を選び、何を削ぎおとし、どんな構成で何を見せるか。チームの個性が問われる団体戦だ。

練馬文化センターホールで行われた第28回大会での演奏風景

 

新島高校の曲は『勇往流転』。太鼓部で代々受け継がれるオリジナル曲『勇み』に、みんなで新しいフレーズを加えた。舞台中央奥にセットされた、2組の組太鼓。それを囲むようにV字形に置かれた長胴太鼓を9名で横打ちする。奏者の腕が左右に動く横打ちならではのアクションを生かして、少人数で広い舞台空間を最大限に使うフォーメーションだ。

組太鼓のユニゾンで走り出す軽快なオープニングから、前半では9名全員によるダイナミックな横打ちを披露。組太鼓のソロを挟んで、後半は横打ち各自のソロパートで力をぞんぶんに発揮した。最後は全員による掛け合い演奏で、壮大なフィナーレへとなだれこんだ8分間。今年、横打ちを取り入れた学校は他にも数校あったが、「全員で最初から最後まで横打ち」というのは新高だけだった。

大会の演奏風景より (c)新島高等学校

 

結果は、銀賞。

「今年こそは金賞を!」と懸命に稽古を重ねてきた部員にとって、ショッキングな結末に涙が止まらない生徒も多かった。メンバーの大半が1年生という新生チームであること、悪天候で島内イベントの中止が相次ぎ、発表の場を踏めないまま本番を迎えたことなど、いくつかの要因が重なったことが考えられるが、それでも当の部員たちは「他の学校の子たちが自信を持って演奏しているのを感じた」「自分たちに足りないことがわかってよかった」と前向きに受け止め、先に進もうと動き始めている。

離島にいると、できないことがある。でも離島にいるから、できることもある。少人数ならではの信頼関係と、横打ちで養った精神力を武器に、パワーアップした新高太鼓部の活躍を楽しみにしたい。

 

 

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