新島の明日葉、その秘められたパワー
今日摘んでも明日には新しい葉が出る、だから「明日葉」。東京諸島に自生する明日葉は、古くから島の暮らしに根付いている食材です。野草ブランド「mo-ya.i」を手がける金澤佑香さんは、2年間の新島生活のなかで明日葉に魅了され、新島産の明日葉を使ったよもぎ蒸し「明日葉steam」と「mo-ya.iバスソルトキット」を開発。
「明日葉には人を癒したり、元気にしたりする力がある気がするんです。そのパワーが何なのか、どうすればそれを引き出せるのか。そんな思いがどんどん強くなっていって」
人生を変えた新島での暮らしと、明日葉への思いをじっくりお聞きしました。
金澤佑香(かなざわ・ゆうか)
植物療法士/ジャーナリングセラピスト。1985年、東京生まれ。2017年に夫の転勤で2年間を新島で過ごし、明日葉に出会う。「心とからだを蒸気でゆるめて、本音の私に還る時間」をテーマに、野草ブランド「mo-ya.i」を立ち上げ。新島産の明日葉と天然塩「しおさいの塩」を使ったオリジナルよもぎ蒸し「明日葉steam」の提供や、「mo-ya.iバスソルトキット」の製造販売を手がける。明日葉steamが受けられるサロン情報などは、公式instagramへ。mi-ya.i instagram
人生観が変わった新島での暮らし
東京から新島に引っ越してきたのは、2017年のことです。主人の転勤で娘と3人で赴任してきたのですが、当時はとにかく心身の不調に悩まされていました。結婚して念願の子どもを授かることができましたが、理想のママ像とはかけ離れた自分に苦しんで育児ノイローゼになってしまったんです。
都内の物の多さ、情報の多さが苦しくて、何もかもに疲れ果てていた頃に舞い込んだのが新島への転勤でした。初めて来た島には、きれいな海と空しかなくて。それだけでもう何もいらない、ここは十分に豊かで、自分が満たされていくのがわかりました。
それで、もともと食に興味があったこともあり、「地域の食材や郷土料理を学びたいな」という気持ちで農協に行ったんです。どんな食材あるのかなと野菜コーナーを見てみると、そこにきれいな明日葉が並んでいました。
「新島には明日葉農家さんがいるんだ!」とわかって、裏面に書いてあった電話番号に電話してみたんです。今考えたら、いきなり電話するのもすごいですが(笑)、そんな私をすんなり受け入れてくださったのが、A-FARMの天野律子さんでした。
それから天野さんの明日葉畑に通い、作業を手伝うようになったんですが、明日葉畑に行くとなぜか元気になって帰れる自分がいたんです。明日葉自体は知っていたんですが、なんでしょう、ボーッと畑に座っているだけで元気になれる。いつしか明日葉畑が自分にとってパワースポットみたいな大切な場所になっていることに気づきました。
その一方で、明日葉って栄養価も高くてすばらしい食材なのに、島の人たちはそこらへんに生えている雑草くらいの扱いで(笑)、その価値に気づいていないと感じたんです。なにより明日葉の値段が安いことに衝撃を受けました。こんなに手間暇かけてつくっているのに、野菜としてだと付加価値をつけるのがむずかしい現実。明日葉ってこんなものじゃない、もっと価値をつけて出荷したほうがいいんじゃないかと、島にいるからこそ感じることが増えていきました。
そこで、まずは島の人に知ってほしいと思い、明日葉講座を開いて明日葉の栄養価や食べ方、考案したレシピをもとに料理をつくって試食してもらったりしました。この頃から私の中で「明日葉の良さを伝えていきたい」という思いが芽生えていたと思います。
明日葉でカラダをゆるめるという発想
天野さんの畑には2年ほど通いましたが、明日葉には旬の時期があること、旅行者が多い夏の時期に明日葉が採れないことがわかってきて、「通年を通して明日葉の魅力を伝える方法はないだろうか」とぼんやり考えていたところ、夫の転勤が決まって島を離れることになりました。
当初はその後も島に通ってくるつもりでしたが、直後にコロナ禍になってしまって。ようやく島を訪れることができたのは、3年後の2022年のことでした。そこには以前と同じように笑顔で迎え入れてくれる人もいたけれど、コロナによって人のつながりが薄くなってしまった現実も感じて。「この島の営みを途絶えさせてはいけない、自分を助けてくれたこの島のために自分ができることをやりたい」という思いが強く沸き上がりました。
そのときに考えたのが、「新島の明日葉に新しい価値をつけて、東京から発信することができないだろうか?」ということ。実は、明日葉に出会ったことで「植物には人を癒したり、元気にしたりするものすごい力があるんじゃないか」という思いが強くなり、東京に戻ってから2年間、植物療法の勉強をして資格を取っていたんです。
野菜としての明日葉は抗酸化力などの効能があることが知られていますが、野草としては研究者も少なく、薬効についてはまだまだ未知数です。ただ、生命力のある植物であることは間違いないし、商品として使うことで新しい実証ができるんじゃないかと考えていました。
そんなとき、新島で斉木佑介さんが海水を焚き上げて塩づくりを始めたことを知り、塩工房を見学させていただいたんです。コーガ石の石窯でゆっくりと焚き上げてできた塩は、ミネラルたっぷりで、新島らしい力強さを感じさせるものでした。
また同じ頃、山口県の徳地地域に行く機会がありました。徳地地域では古くから石風呂の中で野草を焚いて不調を整える風習があり、カラダをゆるめて温める野草の力を目の当たりにしたんです。偶然にも同時期にめぐりあった明日葉と野草、塩。それらをブレンドして、オリジナルよもぎ蒸し「明日葉steam」が生まれました。
明日葉畑にいるような心地よさを表現したい
よもぎ蒸しは、よもぎなどの野草を煎じた蒸気を下半身の粘膜に直接あてることで、カラダを内側からあたためる韓国発祥の温浴療法です。明日葉steamでは明日葉独特の癖のある香りを抑えつつ、徳地村の野草をブレンドして香りのバランスを調整。温まり方や肌の保湿具合を見ながら、何度も試作して完成させました。
野草だけでなく、塩をプラスすることでカラダの芯から温まるよう配合を工夫しています。実際に使った方に聞いてみると、普通のよもぎ蒸しより体の温まり方や、持続感が全く違うという声をいただきます。
明日葉って夏になると茎も葉っぱも硬くなってしまうんですが、それは暑さに耐えようとして抗酸化力が高まっているからだと言われています。食材としては、春のやわらかい明日葉がおいしいんですが、steamに使う明日葉については味や食感は影響しないため、夏の硬くなった葉を使えることがわかりました。
初夏はちょうど端境期で、野菜としては出荷できないけれど、そのままにもできないので刈っては捨てるという作業が必要。その刈り込んだ明日葉を使えば、捨てるはずのものを無駄にすることなく、新たな付加価値をつけて明日葉を生かすことができるのではないか? さらには、アルバイトさんでも作業できるので島の雇用にもつながれば、みんなにとっていいサイクルになるんじゃないか?と思ったんです。
明日葉は東京諸島の他の島でも栽培されていますが、新島産を使うことにこだわるのは「天野さんを応援したい、新島を応援したい」という思いが大事だからです。佑介さんの「しおさいの塩」についても、煤などが混ざっている検品前の規格外品を使わせてもらっています。こちらも無駄なく使えるものを活用することで、循環をめぐらせたいという思いがあります。
新島の海に浸るバスソルト
明日葉steamに続いて、天野さんの明日葉と佑介さんの塩を使った「mo-ya.iバスソルトキット」も開発しました。食べるためにつくっている海水塩をバスソルトに使うのって、すごく贅沢なんですよ。よく売られているものは海外産の岩塩など塊の塩を使っていて、湯船のなかでゆっくり溶けるようなものが多いのですが、mo-ya.iのバスソルトの場合は、お風呂に入れると塩が一瞬でフワッと溶けてしまいます。
私は新島を応援したい、佑介さんの塩づくりを応援したいという気持ちがあったし、新島の海に浸かっているような感じを再現したくて、「しおさいの塩」をそのまま使っています。バスソルトを使うと「元気が出る、疲れが取れる」という感想をいただくのですが、アーシングのような効果があるのかもしれませんね。
150%の力を注いでつくっている生産者さんは、もっともっと評価されるべき人たちだと思っています。でも生産者さんはつくることに精一杯で、伝えるところまで手が回らない部分があるので、代わりに伝える役割の人が必要なのかなと思います。だから私は、顔の見える食材と同じように、顔の見える商品を自分がつくることで、背景にあるストーリーを伝えたい。私が本当にやりたいことは商品をつくることではなくて、そういうことなのかもしれません。
mo-ya.iバスソルトキット
明日葉農家が丹精こめて育てた明日葉と、新島のきれいな海を薪火で炊き上げて作った「しおさいの塩」。新島の自然から生まれた2つの素材に、古くから薬草文化が残り「薬草の里」として知られる、山口県徳地村の野草を独自にブレンドしたのが、mo.ya-iのバスソルトです。
湯上りはしっとり、芯からポカポカあたたまるブレンドです。心ほぐれる自然の香りをお楽しみください。
800円 ご購入はこちらから
しおさいの塩
美しい新島の海からくみ上げた海水を、コーガ石造りの塩釜でじっくりと結晶化。地球を感じ、海に感謝しながら、ゆっくり丁寧につくられた天然塩は、キレのいいシャープな味が特徴です。 その味は、力強い新島の海そのもの。
バーベキュー、ステーキ、おにぎり、塩レモンサワーなど、素材の味を楽しむ料理のお供に、ぜひご賞味ください。
550円 ご購入はこちらから