コーガ石の家が「負の財産」にならないために。~石野正幸さん(前編)
2021年10月5日 更新
不動産のプロに聞く。「新島の空き家、今どうなってますか?」
「島の文化は守れるんだろうか?私たちこのまま活動していて大丈夫?誰かに話を聞いてみよう」ということでスタートした、新島OIGIEのインタビューシリーズ。最初のゲストにお招きしたのは、新島村唯一の宅地建物取引士で不動産のエキスパートである石野正幸さんだ。
空き家が少しでも活用されるようにと活動しているOIGIEだが、家に関わるには不動産や建築などの専門知識が不可欠。石野さんは、そんな私たちを影となり日向となってサポートしてくれる心強いアドバイザーだ。
コーガ石づくりの家は新島文化の象徴で、島での暮らしを根幹で支える大事なもの。そんな島の家が使われないまま残され、5年たった今でも深刻な問題としてくすぶっている。実際OIGIEでもいろいろな家に関わってきたが、思うように動かずもどかしい気持ちになることばかりだ。新島の空き家は今、どうなっているんだろう?活用されるにはどうすればいい?今回は空き家に関する疑問を、石野さんにぶつけてみようと思う。
「空き家について話を聞かせてください」と持ちかけると、後日「人にわかりやすく伝えるって本当に難しいよねえ~」と頭をかきながらオフィスに現れた石野さん。手には、原稿の束。「とにかく伝えたいことがいっぱいあるのよ、オレは」
<今回のゲスト>石野正幸(いしの・まさゆき)さん
新島村若郷地区出身。東京の不動産会社で10年間勤務した後、17年前に新島へUターン。現在は(株)協同に勤務し、新島唯一の宅地建物取引士として島内物件の売買、賃貸、改修、建築など、不動産にまつわる相談事を一手に引き受ける。また奥様と立ち上げた㈱グリーンデメテルでは特産野菜の生産販売や加工品製造を手がけるほか、休耕地の管理を積極的に行うなど農業の活性化に心血を注ぐ。一見荒っぽく見えて実は世話好き、笑顔がチャーミングな島のおじさん。
Contents
空き家は空き家のままでいられなくなる!?
――石野さんは今、新島OIGIEの空き家アドバイザーとして関わっていただいていますが、初期の頃からOIGIEのことをすごく応援してくださっていて、法人化を勧めて支援してくれたのも石野さんでした。今回改めて、新島の空き家ってどうなっているんだろうと思ったとき、不動産のエキスパートである石野さんにお話をうかがわなければと思いまして。
石野さんは新島唯一の不動産仲介業者として、島の物件を一手に引き受けていますよね。島内では空き家問題の解決にむけて役場へ働きかけておられるし、島外から家を探しに来る人のアテンドをされるなど島の窓口としても活動されています。新島の空き家事情って今どうなっているんでしょうか?
新島村では今から4年前、平成29年度に「新島村空き家等実態調査」を行ったんですが、そのときにわかった空き家の数は、新島の本村地区で99軒、若郷地区で 9 軒、式根島地区で31軒。これは、将来的には空き家になるだろうという予備軍の家屋を含んだ数ですが、今うちで扱っている仲介物件は、せいぜい年10~15軒ぐらいです。
――最近は島のあちこちで工事をしていますし、以前に比べると物件が動いているのかなと思っていたんですが、そうではないんですか?
修理する家が多いんじゃないかな。特に夏の時期は、台風シーズンが不安だからと急いで対策をするケースが多いんですよ。2年前に台風被害を受けた影響もまだまだあるし(新島村は2019年の台風15号が直撃し、家屋の大半が被害を受けた)。
新島村は他の自治体と比べても空き家対策には積極的なほうで、平成26年には「新島村空き家バンク」を導入して空き家の利活用をめざしています。それでも登録物件は数えるほどだし、空き家はまだまだ動いていないのが実情。村の人口予想を考えると、空き家は今後も増えていくと考えられます。
じゃあ、そもそも「空き家」ってなんだ?という話になるんだけど、「空き家等対策の推進に関する特別措置法」という法律で定義されているのは「建築物またはこれに附属する工作物であって、居住その他の使用がなされないことが常態であるもの及びその敷地」。カンタンに言うと「おおむね年間を通じて使用されていない建物と、その土地」ということ。「夏の間だけ使っているからうちは空き家じゃない」と言う人がいるけれど、誰も住んでいなくて1年間ほぼ使っていない家なら、空き家として認識されてしまうのが現実なんだよね。
――島の場合、島外に住んでいる方が夏だけ利用したり、年数回利用するために家を残しているケースって多いですよね。
空き家かどうかって外からはわかりづらい場合があるけど、東京都では電気事業者と連携して、電気を使っているかどうかといった情報を空き家対策に利用しようという動きがあって、ほぼ100%の割合で空き家かどうかを特定できるようになりつつあります。だから、空き家をそのまま放置することがどんどん難しくなっているのが現状なんだよね。
空き家がなんで問題かというと、空き家を持っていると不審者の侵入、家財の盗難、放火、不法投棄といった問題や、建物が管理されないことで倒壊のリスクを抱え続けることになるわけですよ。所有者や相続人に負担を強いるばかりでなく、近隣住民を巻き込んで地域全体に災厄をもたらす可能性を秘めている。
そこで国としては、空き家の中でも特に状態の悪いものを「特定空き家」というものに法律で指定しようということになったのね。特定空き家に指定されてしまうと行政指導が入って、処分や解体など何らかの対処が求められることになり、所有者はものすごく大変なことになるんですよ。そうならないために、空き家を持っている人にぜひ知ってほしいことがたくさんあります。
特定空き家に指定されると税金が4.2倍に!
特定空き家ははどこで決めるのか?というと、各地方自治体です。新島でいえば新島村だね。特定空き家の条件は、この通り。
このうち③がポイントで、例えば「親戚などに家を管理してもらっているから大丈夫」という人がいると思うけど、周囲の景観を破壊してしまっている状態の家って新島にも結構あるでしょう。「こんなところにこんなボロ家が」って。それは適正な管理がされていないことになるから、特定空き家に指定されてもおかしくないわけです。④も同じ。「客観的に見てこれはダメでしょうという物件は特定空き家に指定しなさい」というのがこの法律なんですね。
特定空き家に指定されるとどうなるか。一番大きく影響するのが税金です。土地の固定資産税の納税額が上がってしまうんですよ。土地の固定資産税には「住宅用地特例措置」というものがあって、住宅用地であれば敷地面積200㎡以下の部分は1/6に、200㎡を超える部分は1/3に税額が抑えられているんです。
ところが特定空き家の指定を受けると「住宅として使っていないんだから住宅用地じゃないよね」ということになり、軽減がなくなります。そうすると固定資産税の納税額は「非住宅用地の負担調整」を考慮しても、おおむね4.2倍にはね上がります。
また家を使っていてもいなくても、建物がある限り課税され続けます。建物が古くなったことで減価されることはあっても、評価額はゼロにはならず税金はかかり続けます。その間、建物になにかあれば補修しなければならないし、「空き家を持っていればいるほど金が出ていく」という、すごく負担が大きい状態になってしまうんですよ。
まさに負の財産。そうならないように、空き家は売るなり貸すなり、きちんとした管理を委託するなりして、特定空き家になることを防ぐことが大事になってくるんだよね。
特定空き家にならないためには?
――空き家を持ち続けると、リスクが大きいってことですよね。それでも空き家が減らないのは、島ならではの事情もある気がします。よく聞くのは「仏壇があるから売ったり貸したりできない」「ご先祖様から受け継いだ家を売り買いするのは気が引ける」といった話です。
そうだね。思い入れのある家をどうこうするのは気が咎める、という気持ちはわかります。あと、新島でよく聞くのが「島に住んでいる親が老人ホームに入居したことで空き家になってしまった」というパターン。年間を通して使われていない以上、それは空き家として認識されてしまいます。そのまま放置しておくのはよくないということになるわけですが、「親が生きている間は売ることも貸すこともしたくない。たとえ家に帰ってこれないとしても、葬式は家から出してあげたい」ということがとても多い。
そういう場合、もちろんそのまま維持するのもいいと思うんだよね。やっぱりお金に換えられない価値って絶対あるし、売るのも貸すのもイヤっていう人は一定数いると思っています。そのかわり、特定空き家にならないためには放置しないでほしいってことです。
特定空き家にならない方法としては「売買・賃貸」「管理」「取壊」という3つの方法があります。親戚などに頼んで家を見てもらっている人もいると思うけど、適正な管理がされていることが重要です。そういう管理を親戚にお願いするのは気を遣うし、大変なこともあるじゃないですか。これまではそこをきちんと管理してくれる業者もいかなったし、空き家管理の仕組みもなかったのでしかたない部分もあるけれど、今は新島OIGIEが空き家管理の取り組みを始めたことで受け皿ができて、足りない部分をカバーできるようになったということは、島の人には知ってほしいなと思います。
新島OIGIEの空き家管理サービスについてはこちら
空き家を3年以内に売却すれば税負担が軽くなる⁉
空き家を管理するんじゃなくて、売るということであれば覚えておいてほしいのは、「親の居住していた空き家は3年以内に売ったほうがいい」ということです。というのも、親が亡くなる直前まで居住していた土地建物家は、親がホームに入居していた場合も含め、一定の要件を満たせば譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができるんです。
通常、土地建物を売却すると「不動産譲渡所得税」という税金を納めることになります。これは不動産を売却することで得た譲渡所得に対して課税されるもので、土地建物の所有期間に応じて税率が決まっています。(親から相続した場合は親の所有期間を引き継ぐことができます)
ところが、その税金がゼロにできる方法がある。それが「親の居住していた空き家を3 年以内に売却すること」です。税金はさまざまな法律によって軽減されているんですよね。ただし、大半は「時限立法」と言って期限が決められた特別な減税制度のため、今の措置がいつまで続くのかはわかりません。今のところは空き家を放置せずに早めに対処すれば、節税効果が大きいってことを知ってほしいと思います。
自己負担なしで空き家を賃貸できる⁉
家を売ることはできない、でも管理も大変という場合は、家を賃貸するという方法もあります。ただ、家を誰かに貸そうと思うと、家の中のゴミや家具家電、衣類などを処分しなきゃいけないとか、リフォームをしなきゃいけないとか、費用も労力もすごくかかることが多いわけ。これが大変だから、みんなやりたがらない。使われない家が放置される原因って、実はそういうところが大きかったりもするわけじゃない。
ところが最近は「DIY 型賃貸契約」という新しい契約形態が、特に古い家が多い地方ですごく増えているんです。 DIY はDoit yourself の略で、自分で家を修理すること。この契約形態だと、貸す人ではなく借りる人が自分で費用を負担して建物をリフォームするんです。家賃は通常の半額ほどに抑えられることになるけれど、建物の状態によっては200 万円以上のリフォーム費がかかる場合も少なくないので、初期費用をかけたくない、片付けるのが大変という人にはおすすめの方法だと思います。
空き家の売却・賃貸に村の補助金を利用できる
空き家を売却しよう、あるいは賃貸しようという方は、新島村の「定住化対策事業交付金」を利用することもできるんですよ。これは建物の売却や賃貸、解体などにかかった費用の半分(上限100万円)を村が負担します、という制度。利用するには新島村空き家バンクに登録して、家を利活用することが条件になるんだけれど「家を貸してもいいけど建物のリフォームが必要」という方は、ぜひ検討してみてほしいですね。
くわしくは新島村ホームページへ→こちら
空き家とひとことに言っても、ひとつひとつの家が代々受け継いできた、思い出のつまった大切な財産。その思いを新しい住人に引き継ぎつつ、新島独特の「石の家」を残していく方法はあるのだろうか? 後編では不動産のプロ・石野さんに「コーガ石の家って残せますか?」という質問をぶつけます!