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映画『おいしい家族』公開記念特別インタビュー1

  • インタビュー

Posted on 2019年9月20日

新島、式根島オールロケで完成した注目作が公開! 島にこだわった監督の思いとは?

「実家に帰ると、父が母になっていました。」というキャッチコピーが目に飛び込んでくる映画『おいしい家族』。主演をつとめるのは、大作への抜擢が続く注目の女優・松本穂香。そしてメガホンを取ったのは、今作が初の長編映画となる新鋭、ふくだももこ監督。気鋭の若手クリエイターのタッグによって生まれた注目作が、9月20日(金)より全国公開される。

撮影にあたっては新島、式根島でオールロケを敢行。地元の人々もエキストラとして大勢出演し、離島の美しい景色とおおらかな空気感をスクリーンに閉じ込めた。「この映画を撮るなら絶対にここじゃなきゃダメだった」というほどロケ地にこだわりを持つふくだももこ監督に、映画にこめた想いや新島、式根島でのエピソードを語っていただいた。

 

「オトンがオカンの格好したらおもろいやろな」

はじめは単純な思いつきだった

――東京での仕事も結婚生活にも行き詰まりを感じていた主人公の橙花(とうか)は、母の3回忌のため故郷の離島へ久しぶりに帰ってくる。すると実家で待っていたのは、なんと亡き母のワンピースを身にまとった父! しかも、父の横には見知らぬ男がいて、「お父さん、この人と結婚して新しい家族になろうと思う」と、とんでもないことを言い出して…。

そんなパンチのある展開で始まる『おいしい家族』は、もともとは監督が2016年に制作した短編映画『父の結婚』がベースになっているそうですね。どういった発想で生まれた作品なんでしょうか?

ふくだ 以前から映画を作りたいなという気持ちはあったんですが、どうしたら作れるのかわからなくて。それで、オリジナル脚本が選考に通ったらそれを監督できるという、文化庁の若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)のことを知り、応募したのがきっかけです。

その時に「オトンがオカンの格好していたら、おもろいやろうな」みたいな安直なアイデアだけで撮ったのが『父の結婚』。ヒロインとお父さん、お父さんの彼氏、お兄ちゃんだけの、山梨で桃農家を営む小さな家族の物語でした。

でも、その時はすごく消化不良だったというか、もっと伝えたいことがあったのに当時の自分ではうまく表現することができなくて。だから『父の結婚』を見た映画会社の方から声がかかって、「長編化してみるのはどうか? 若いんだし、オリジナル作品でデビューした方が絶対いいよ」と言われた時は、今度は絶対にちゃんとメッセージを伝えよう! と心に決めたんです。

久しぶりに故郷の島に帰ってきた主人公の橙花。映画のロケで使われているのはフェリーあぜりあ。 ©2019「おいしい家族」製作委員会

 

――お母さんの格好をしたお父さんをはじめ、父と結婚する見知らぬ男・和生、その連れ子となるエキゾチックな女子高生ダリア、のんきな弟と底抜けに明るいスリランカ人の妻、謎めいた男子高校生・瀧…と個性的なキャラクターが次々に登場してきます。

ふくだ 長編化にあたっては、まず短編で描いたキャラクターをもっと深く描きたいと思いました。板尾創路さんは『父の結婚』からお父さん役をお願いしていますが、最初から板尾さんに演じてもらうつもりで脚本を書いています。脚本を書く時は、基本的に役者さんに当て書きしているんです。

キャスティングが決まっていない時でも「この人のこの声で、このセリフ喋っていたら」という風に考える。キャストが本格的に決まれば、その人に当ててセリフも全部書き直します。こういうことができるのは、脚本と監督の両方ができるからですね。

――板尾さん演じるお父さんは妻を亡くした後、なぜかお母さんの服を着て、母になりきって別の男性と再婚しようとします。普通に考えれば突拍子もない話ですが、板尾さんは終始口数が少なく飄々としていて、抑制の効いた演技が印象的です。

ふくだ 板尾さん、いいですよねえ。板尾さん演じる父は、物語の核となる人物。その人があまり喋りすぎるのは嫌やなと思ったし、父親として生きてきた人生はそのまま残っていて、ただそこに「母になりたい」という欲求だけが乗っかっていく。

だから人間としての父は父のままだから、特に変わらずドンとしてほしいなと。それにあの板尾さんが飄々としながら、お母さんの格好で勤務先の学校へ出勤していくのがシュールで面白いわけで(笑)

実家に帰った矢先に父から爆弾発言が…!? ©2019「おいしい家族」製作委員会

 

――そんなお父さんと娘の物語にドライブをかけてくるのが、再婚相手の連れ子・ダリアと同級生の瀧くんという2人の高校生です。人に言えない悩みを抱えてもがく瀧くんと、彼に寄り添うダリアの姿は胸に迫るものがあります。

ふくだ そういってもらえると嬉しいです。長編化にあたって考えたのは、登場人物を増やすことで物語に広がりを持たせたいということだったんです。一番大きかったのが、ダリア役を演じたモトーラ世理奈ちゃんと、ダリアのクラスメイト・瀧役を演じた三河悠冴くんの存在。

2人ともすごく気になる役者さんだったので、2人のことを単純に撮りたいなと思って、そのために高校生の軸を加えようと決めた時、山梨の桃農家の話が長編として一気に動き出したという感覚がありましたね。

入江で心を寄せ合うダリアと瀧 ©2019「おいしい家族」製作委員会

式根島の入江を見た時に

「舞台はここだ!」と確信

 

――映画の舞台は東京から船で行ける離島という設定。新島、式根島でオールロケが行われましたが、短編の時には山梨だった舞台を離島に変えたのはなぜですか?

ふくだ 『おいしい家族』の制作が決まった時、プロデューサーに「長編にするなら家族の話じゃなく、町の話にしないか?」と言われたんです。でも地方の町はなんだかピンとこなくて。島なら海に隔絶されていて、もしかしたら世界のどこかにこういうすばらしい島があるんじゃないか、全く新しい世界を作れるんじゃないかっていう気がしたんです。

あと私の両親が瀬戸内海の島出身で、島への憧れがありました。島は人同士の距離が近くて、優しくて、あたたかい。そんな島で映画を撮れたらいいなと思っていたので、舞台を島にしようと決めました。

それで、東京から撮影で行ける島をGoogleマップで探していたところ、たまたま式根島にある入江の写真を見て「ここでしか撮られへん!」と思ったんです。島って広くておおらかな感じがするけど、実は閉ざされているところもあると思う。この入江はきれいだけど閉ざされていて、どこかに行きたくて、でもどこへも行けない瀧くんの象徴となる場所になるという直感がありました。

さらに調べてみると、隣の新島にも広くてきれいな海があった。大きな海と小さな入江で対照的な絵が撮れる、この2つがないとこの作品は撮れないなと思いました。それで新島、式根島をロケ地として、1つの架空の島として描くことにしたんです。

 

  監督が惚れ込んだ、式根島の泊海岸 ©2019「おいしい家族」製作委員会

 

 

島を歩いて、よけいな演出は

全部やめようと思った

 

――映画では新島、式根島ではおなじみの景色もあれば、意外な場所も出てきます。撮影地については、どうやって決めたんでしょうか?

ふくだ 撮影にあたっては事前にネットで調べて、このシーンはここ! あのシーンはあそこ! と決めて行ったんですよ。ただ、映画の中で重要な場所として教会が出てくるのですが、あれは新島をロケハン中に偶然見つけた場所でした。

道を歩いていたら、どこからか賛美歌が聞こえてきて、歌声のする方に行ってみたら真っ白い小さな教会があって。ちょうど、家でも海でもない心の拠り所みたいなところがほしいなと思っていて、ああここだ!と。しかも2階に上がって事務所を見た時、ここは和生とダリアが住んでいる家だ、という実感があったんです。そうやって島を歩いていくことでモヤがかかっていた部分がめちゃくちゃ鮮明に見えてきて、脚本もかなり書きかえました。

映画で重要なシーンとして登場する新島教会 ©2019「おいしい家族」製作委員会

 

――どんな風に変えたんでしょうか?

ふくだ たとえば橙花が弟とぶつかるシーンで弟が叫ぶとか、最初はわかりやすく感動するセリフを用意していたんですね。説明的な言葉も多かったし。でも新島に行ったことで、そういうものは必要ないんじゃないかって思ったんです。そんなことをしなくても、1人の人間がこの島で生きてきたんだという実感が伝わるという手ごたえがあった。だから、わざわざ劇的にする必要はないなって。

――今作では離島ということもあって、エキストラは全員地元の住民たち。東京での撮影と様子が違うこともあったと思いますが、撮影はいかがでしたか?

ふくだ 楽しかったです! 島の人の協力なしには成立しなかった映画です。特に島の子供たちの姿には感じるものがありました。みんな、心がずっと開いている。誰も演技することを恥ずかしがったり構えたりしないし、それを見て誰も「あいつ、やっとんな」とかいじったりしない。あれは本当にすばらしいです!

あと普通にスケボーに乗って高校に登校して来た子がいて、マジかと(笑)。もう面白すぎて、そのままその子はスケボー少年として映画に出てもらいました。スケボーに乗って登校するんだけど、いい子なので校長先生の前ではスケボーを降りて「おはようございますっ!」って90度頭下げて挨拶して、でも先生の前を通り過ぎるとまたスケボーに乗っていくっていう(笑)。

島ってみんな知り合いだし仲良しだから、すごくのびのびとやってくれますよね。単純に人口が少ないので、エキストラで来てくれた人に「昨日は嫁さんの妹が来たよ」と言われたり、小学生たちが声をかけてくれたり、通りすがりのおっちゃんに「ちょっと出てください!」って言ったら、「いいよ」って普通に出てくれたりして。都会ではまずありえないですよね。

お父さんが勤める高校のシーンには多くの地元学生が出演 ©2019「おいしい家族」製作委員会

 

インタビュー後編では、ふくだ監督の映画へのこだわりについてうかがいます。9月27日頃公開予定。お楽しみに!

 

<Profile>

ふくだももこ

1991年8月4日生まれ、大阪府出身。監督、脚本を務めた卒業制作「グッバイ・マーザー」(13)がゆうばり国際映画祭2014等に入選。若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)2015に選出され、短編映画「父の結婚」を発表し注目を集める。2016年には執筆活動も開始し、すばる文学賞佳作を25歳にして受賞し小説家デビュー。ほか山戸結希企画・プロデュース映画『21世紀の女の子』(19)、ドラマ「深夜のダメ恋図鑑」(ABC/18) 、「カカフカカ」(MBS/19)にて監督を務めるなど映像、文学の両フィールドでその才能を如何なく発揮する新鋭作家。今作が初の長編映画監督作。9月26日には小説版『おいしい家族』も発売予定(集英社刊)。

 

取材協力:新島村ロケーションボックス、東京ロケーションボックス

聞き手:秋枝ソーデー由美(にいじまぐ編集部)



映画『おいしい家族』

監督・脚本:ふくだももこ 出演:松本穂香、笠松将、モトーラ世理奈、三河悠冴、柳俊太郎、浜野謙太/板尾創路 音楽:本多俊之 2019年9月20日(金)より全国ロードショー。公式サイトhttps://oishii-movie.jp

映画監督、小説家として活躍する新鋭ふくだももこ監督が、2016年に制作した短編映画『父の結婚』を長編化。主人公の橙花(松本穂香)は銀座で働きながらも、仕事も結婚生活もうまくいかずモヤモヤする日々を送っていた。そんなある日、母の3回忌のため故郷の離島へ帰ったが、そこで待っていたのは母の服を着て生活している父・青治(板尾創路)。しかも青治はお調子者でどこか信用できない居候の男・和生(浜野謙太)と連れ子の娘ダリア(モトーラ世理奈)と「家族になろうと思う」と爆弾発言して…。

テレビドラマ版『この世界の片隅に』やauの「意識高すぎ高杉くん」CMなど、今最も注目が集まる若手女優・松本穂香が初主演を務めたほか、父親役に芸人、俳優、映画監督とマルチに活躍する板尾創路、父の再婚相手・和生役に「在日ファンク」ボーカルで俳優としても注目されるハマケンこと浜野謙太など、個性的なキャストが集結。さらに伊丹十三作品を数多く手がけてきた本多俊之が音楽を担当した。

撮影にあたっては伊豆諸島の新島、式根島でオールロケを敢行。穏やかな島を舞台に、性別も年齢も国籍も超えてつながろうとする人々の姿を明るくユーモラスに描いた話題作。

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