新島小学校壁画プロジェクト第2弾!
東京からの船が行き交う島の玄関口・新島港と集落を結ぶ海岸通り。その一角にある(株)ネクセライズ新島油槽所の擁壁に1年前、新島小学校児童による壁画が登場しました。島の名所や特産物、伝統芸能など、子供たちが「新島のここを自慢したい!」と思うモチーフが勢ぞろいした、にぎやかな壁画です。

「何もないエリアでしたので、壁画が目に飛び込んでくるようですね。わざわざ近くで見にこられる観光のお客様も多いようで、私たちとしては嬉しい限りです。児童が何を伝えたいのかをしっかり考えたデザインだったことや、絵のクオリティにはいつも驚かされます。今年の壁画も、去年とはまた趣が違っていて、とても面白い作品ですよね」
そう語るのは、壁画制作を依頼したネクセライズの龍川響さん。「今年の壁画」というのは、3月に完成したばかりの第2弾作品のことです。島の発電所に燃料を供給する、島の重要なインフラを支える企業として「いろんな人が島を支えていることを知ってほしい」との思いからスタートした新島小学校壁画プロジェクト。今回は小学校での地域探究の集大成として、6年生が制作を担当しました。
▲2026年3月に完成した壁画
小学生らしい明るさのなかに、どこかミステリアスは雰囲気をまとう今回の壁画。そこには新島の文化をディープに探究してきた6年生の、あふれる思いが込められていました。今日はぜひご一緒に、子供たちが描いた壁画を読み解いていきましょう。
壁画を読み解くキーワード(1)ヤカミ衆
今回の壁画には、驚くべきモチーフが描かれています。それは「ヤカミ衆」。壁画の中央に描かれている女性たちです。

ヤカミ衆は新島や式根島に古くから存在していた女性集団で、黒い着物にヒッシュウ(赤布)かぶり、手にさんご袋(巾着)の姿で神社や浜におもむき、御歌(みうた)と呼ばれる神楽を歌って神に祈りを捧げていました。大踊や獅子木遣りと並んで、島の無形文化財に登録されていたヤカミ衆の神楽ですが、残念ながら後継者不足などさまざまな理由で数年前に途絶えてしまいました。
そんな消えてしまったヤカミ衆に興味を持ったのが、今年の6年生です。もともと4年生のときに総合学習で「大踊」をテーマに取り組むなど、島の伝統文化に関心の強い子供たち。小学時代の集大成となる6年では、島内でも特に文化や風習が色濃く残る若郷(わかごう)集落でフィールドワークを実施。その一環として出会ったのが、ヤカミ衆でした。
若郷はヤカミ衆が最後まで活動していた場所だったため、ヤカミのおばあちゃんたちから話を聞き、仕事内容や所作、歌い方などを直接教わることができたといいます。なかには神楽が大好きになり、個人的に歌を習いに通った児童もいたという熱中ぶり。2月に行われた学習発表会で神楽を披露したほか、本村と若郷2つの集落で活動していたヤカミ衆経験者を集めた懇親会も開催。知られざるヤカミの存在が、子どもたちを通して注目されることとなりました。
▲学習発表会で神楽を披露する6年生児童
壁画では中央の一番目立つ場所にヤカミ衆の絵を配置。右側には、おつとめの最初に必ず歌う御歌「もと上げ」の歌詞が書かれています。

壁画を読み解くキーワード(2)島言葉
新島の方言も、6年生が強い関心を寄せたテーマです。最近では大人でも島の言葉を話せない人がいるほど、方言の存続が危うくなっているのが現状。6年生のなかには「方言をしゃべってみたい!」と願う児童もいて、方言にくわしい住民などから話を聞いたんだそう。

しかもすごいのは、集落ごとに言葉を調べたこと。同じ島でも本村と若郷という2つの集落では言葉や発音に違いがあり、壁画にもそれはしっかり反映されていました。書かれているのは「おーい!あなたたちも新島で遊んでいってね~」という呼びかけなのですが「遊んじいきよ」「遊んでぃいきよ」と微妙に異なるニュアンスをしっかりおさえています。

壁画を読み解くキーワード(3)コーガ石

コーガ石は新島で採掘される天然石で、古くから建材として重宝され、一大産業として島の暮らしを支えてきた歴史があります。島のあちこちで見ることができるコーガ石ですが、実は暮らしのなかで石そのものに触れる機会はほぼありません。
そんなコーガ石の文化を間近で感じようと、コーガ石の石切り体験をした6年生。新島で活動する作家・桐島 甲宇さんの指導を受けながら、児童それぞれがオリジナルデザインの灯籠を完成させました。
軽くてやわらかいコーガ石は子供たちでも簡単に扱いやすい一方、細かな細工を入れると壊れやすい繊細さも。コーガ石の特性を考えながら、島の形や動物など一人ひとりが描きたいモチーフをどう表現するか。試行錯誤が続きました。

大切にされてきたものを、大切にしたい
6年生の壁画制作プロジェクトは、2026年1月に始動。全員が描きたいモチーフを考え、授業の合間に原画を制作。2月の学習発表会で原画が披露されました。


2月中旬より5日間にわたって現場での作業がスタートしました。まずは原画をトレースして、壁に大枠のラインを書いていきます。









ヤカミの神楽を歌いながら作業する子供たち。節回しの難しさもヤカミの神楽が伝承されなかった一因と言われていますが、子どもたちはまるで大好きなアイドルの曲を口ずさむように、楽しそうに歌いながら手を動かしています。まさか、こんな光景を見る日がくるとは……。



そして3月9日の夕方。コーガ石の灯籠を設置して、完成披露会が開かれました。当日はたくさんの地域住民も集まり、にぎやかな点灯式となりました。




見学に訪れた住民のなかには「ヤカミ衆を初めて知った」という方や、「親戚のおばあちゃんがヤカミだったけど、話を聞いたことがなかった」という方など、壁画を通じて初めてヤカミの世界に触れた人も多かったよう。改めて感じるコーガ石の優しい風合いや、方言のユニークさにハッとしたという声もありました。
「初めてコーガ石を加工する子がほとんどでしたが、道具に慣れるのが早く、細かい部分も丁寧に彫られていて驚きました。灯籠はコーガ石の作品と光の相性の良さから、とても温かみを感じます。ウォーキングやランニングをする方が多いので、たくさんの方に見てもらえると嬉しいですね。子どもたちも前よりコーガ石を身近に感じて、自分の言葉で説明できるようになったと思います。新島の貴重な石をどんどん自慢していってもらいたいです」
と語るのは、灯籠づくりのサポートを行った桐島さん。1年間見守ってきた担任の兼近真慈先生も、壁画を前に感無量の様子。
「6年生はそれぞれに興味のあるテーマがあって、一人ひとりのテーマを追求させてあげられたらよかったという思いもあります。それでもみんなのなかには『島の人たちがずっと大切にしてきたものを、自分たちも大事にしたい、守りたい』という思いがとても強くて、その思いがギュッと詰まった作品になりました。壁画を通じて、島の文化を感じてくれる人が増えたらいいなと思っています」
大人が「どうにかしなきゃ」と思いながらも超えられない壁を、軽やかに超えていく子供たち。その突破力が小さな光となって今、島の未来をほのかに照らしています。浜通りを通る際には、メッセージにあふれた壁画とコーガ石の灯籠をぜひご覧ください。
※灯籠は太陽光ライトで点灯しています。
*灯籠は2027年3月まで1年間の期間限定展示となります。
協力:株式会社ネクセライズ 新島村立新島小学校 新島物産株式会社








