特集 連載 流され島のファンタジア
流人と出会って進化した祭り 流人と芸能
Posted on 2020年6月16日
祝祭の場に見え隠れする流人の影
厳しい島暮らしの中で、人々が最も楽しみにしていたのは祭りだった。江戸からやって来た流人たちがもたらした歌や踊りは、島の風土に根ざして独自の進化を遂げ、新しい芸能として今に受け継がれている。
流人文化を代表する島の芸能
夏に新島へ来るなら「大踊」を見ない手はない。毎年8月14日の夜、若郷の妙蓮寺。翌15日の夕方、本村の長栄寺。赤や紫の鮮やかな布でたっぷりと顔を覆い、藍色の着流しに白足袋姿の踊り手が宵闇の境内でゆらり、ゆらりと舞い踊る。
江戸からやって来た流人たちは技術や教育だけでなく、歌や踊りといった芸能も新島に運んできた。「大踊」もそのひとつ。流人が来る前から島に伝わっていたという説もあるが、踊り上手な流人が手ほどきした、流人が踊るので顔を布で隠した、といった流人にまつわる逸話も多く、流人が関わったことで独自の進化を遂げた新島ならではの祭りといえるだろう。
もうひとつ、新島を代表する芸能に「獅子木遣り」がある。木遣りに合わせて獅子が舞う全国的にも珍しい獅子舞で、お囃子がないのは流人が太鼓のバチや笛を武器にして逃げるから、という流人の島らしい事情が隠されている。
普段は厳しい暮らしを強いられた流人たちも、この日ばかりは島の人々と一緒に祭りを楽しんだという。生へのエネルギーがほとばしる祝祭の場で、胸にあふれたのはひとときの解放感か、それとも故郷を思う切なさだっただろうか。
大踊り(おおおどり)
8月14日 若郷・ 妙蓮寺 / 8月15日 本村・ 長栄寺
*2020年はいずれも新型コロナウイルス感染防止のため、残念ながら中止が決定しました。

毎年お盆に本村の長栄寺、若郷の妙蓮寺境内で披露される踊り。踊り手は紫色(若郷は赤色)の「カバ」と呼ばれる布を垂らした妻折笠をかぶり、藍色絹織の着流しに白足袋姿で風流歌に合わせて輪になって踊る。
役所踊りに始まり伊勢踊り、お寺入り踊りなど数種類が披露されるが、本村の大踊はゆったりとした動きで儀式的、若郷の大踊はダイナミックで華やかさがある。いつ頃から新島で踊られているのかは諸説あり、流人が持ち込んだとも、いくつかの踊りを流人が教えたともいわれる。
かつては村の男衆の中から選りすぐりの踊り手が集められ、踊りの名手は憧れの的。若い女性たちが踊り手の小物を奪い合ったというエピソードも。


獅子木遣り(ししきやり)
十三社神社 2019年12月に復活。2020年以降は未定

十三社神社で古くから伝わる獅子舞で、例大祭や遷宮など神社の重要な儀式の際などに披露される。神の化身である獅子が村を練り歩き、頭を噛まれた人は神の力を授かり厄除けになったといわれる。
獅子舞といえば祭囃子に合わせて舞うのが一般的だが、新島ではお囃子はなく、かわりに木遣りを歌うのが最大の特徴。これは獅子舞を見物に来た流人たちが、お囃子に使われる太鼓のバチや笛を武器にして、島抜け(島外脱出)しようとするのを避けるためといわれている。
また木遣りは江戸木遣りをルーツとし、神田から来た流人たちが持ち込んだとされる。獅子木遣りは新島では長らく披露されていなかったが、2019 年12月、十三社神社例大祭で12年ぶりに披露された。


なお、2019年12月に行われた獅子木遣りの巡行については、レポート記事があります。→こちら
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Text by 秋枝ソーデー由美
*こちらはフリーペーパー『にいじまぐ』2号(2018年8月発行)の特集記事をWeb転載したものです。記事の内容および写真は掲載当時のままとなっており、一部情報が古いものもあります。あらかじめご了承ください。