映画『おいしい家族』公開記念特別インタビュー2
2019年9月27日 更新
新島、式根島でオールロケを行なった注目作が公開!
「実家に帰ると、父が母になっていました。」というキャッチコピーが目に飛び込んでくる映画『おいしい家族』。大作への抜擢が続く注目の女優・松本穂香の初主演映画ということもあって公開前から話題を呼び、9月20日の全国公開と同時に「ぴあ映画初日満足度ランキング」で5位にランクインするなど好調なスタートを切っている。
今作でメガホンを取ったのは、これが長編映画デビューとなった新鋭、ふくだもももこ監督。映像にとどまらず、処女作がすばる文学賞佳作を受賞するなど小説家としても活躍中だ。オールロケを行なった新島、式根島への思いをうかがった前編に続き、後編ではメディアの垣根を超えて作品を生み出し続ける28歳の彼女に、映画にこだわる理由や家族への思いについてうかがった。
ふくだももこ監督インタビュー前編はこちら→☆
ひとりで物語を紡ぐより
人と関わって作品を作りたい
――『おいしい家族』は初めての長編映画監督作品になりました。最近はテレビドラマも手がけておられますし、小説では処女作がすばる文学賞佳作を受賞されています。さまざまなジャンルで活躍される中で、映画に対してはどんな思いがありますか?
ふくだ 私、中2の時に「人生どうしたらええんやろ」と悩んだことがあって、若干ひきこもりになった時期があったんです。そんな時にオトンが映画館に連れていってくれたことがあって。映画館って、スクリーンと自分だけになるじゃないですか。そうして映画と向き合っていた時に「スクリーンの向こう側には出ている人だけじゃなくて、もっとたくさんの人が存在しているんだ」って感じた瞬間があって。
それまでは漫画家になりたくて、ひたすら絵を描いていたんですが、でも漫画って一人だからしんどいなと思ってしまって。スクリーンの向こうの人になりたい、そっち側に行ってたくさんの人と関わりたいと思ったんです。だから自分はいずれ映画監督になるんやろうな、と漠然と中学校の時から考えていました。
まさかこんなに早く実現できるとは思っていなかったですが、それでも私にとって映画は特別な存在。いろんな人と1つの作品を作ろうと目指していくのが面白いし、自分の映画ではそういう現場であってほしいと願っています。そして、自分の思想を反映できるのが映画だと思う。監督の思想のない映画は、映画ではないと思っています。
あなたの隣の人に優しくする
そうすれば世界はもっと良くなる
――『おいしい家族』で監督が伝えたかった思いとは、どんなことでしょうか?
ふくだ 私、20代のころはもっと嫌なやつやったんです。他人の悪口ばかり言っていたりして、すぐケンカするし。作品も内へ内へ入って、めちゃ暗かったですね。それが25歳を超えたときに「あ、もう自分のためだけに作品を作るのはやめよう」と思った瞬間があって。
自分の内面を作品にするのではなく、人に何かを伝えるために映画を撮ろう、誰かの心を少しでも癒したり豊かにしたり、そんな映画を撮ろう。そう思ったら、すごく視界が開けたんです。
『おいしい家族』では自分の考えるユートピアを描きたかった。自分のことを大切にして、ちょっとだけ誰かに優しくできたら、世界は絶対もっとよくなる。そういう世界になってほしいと本気で願っています。
――登場人物も1人ひとりは孤独や喪失感を抱えていて、それでも互いに寄り添って生きていこうとしている。その姿がとても愛おしくて、あたたかい気持ちになります。
ふくだ 私は養子で、家族全員と血が繋がっていないんです。物心ついた時にそれを言われて、家族とは何か、血縁のない家族ってなんやろう、ということを延々と考え続けてきたんですね。
私自身は養子であることを、マイナスに感じたことがなくて。むしろ、私を育てられなくてもゴミ箱やロッカーに捨てずに、ちゃんと施設に入れる意思を持った人が生んでくれたこと、うちの父と母が私を引き取って大事に育ててくれたこと、全てがラッキーだし、感謝しています。
だから自分が家族を描くなら、絶対に新しいアプローチをしよう、せなあかんと思っていました。それで、実家に帰ると父が母になっていて、見知らぬ男と見知らぬ女子高生が家にいて、いきなり家族になるんだっていう、家族には血縁も、人種も、性別も全部関係ないよって話を、明るく撮りたいなと思ったんです。
みんなが自分の隣にいる人にちょっとだけ優しくできる、そんな世界なら誰が誰を好きになっても、何をやってもええやんって思う。この映画を見てくれた方にも、そう感じてもらえたらと思っています。
取材協力:新島村ロケーションボックス、東京ロケーションボックス
聞き手:秋枝ソーデー由美(にいじまぐ編集部)
<Profile>
ふくだももこ
1991年8月4日生まれ、大阪府出身。監督、脚本を務めた卒業制作「グッバイ・マーザー」(13)がゆうばり国際映画祭2014等に入選。若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)2015に選出され、短編映画「父の結婚」を発表し注目を集める。2016年には執筆活動も開始し、すばる文学賞佳作を25歳にして受賞し小説家デビュー。ほか山戸結希企画・プロデュース映画『21世紀の女の子』(19)、ドラマ「深夜のダメ恋図鑑」(ABC/18) 、「カカフカカ」(MBS/19)にて監督を務めるなど映像、文学の両フィールドでその才能を如何なく発揮する新鋭作家。今作が初の長編映画監督作。9月26日には小説本『おいしい家族』(集英社刊)も発売された。
映画『おいしい家族』 監督・脚本:ふくだももこ 出演:松本穂香、笠松将、モトーラ世理奈、三河悠冴、柳俊太郎、浜野謙太/板尾創路 音楽:本多俊之 2019年9月20日(金)より全国ロードショー。公式サイトhttps://oishii-movie.jp 映画監督、小説家として活躍する新鋭ふくだももこ監督が、2016年に制作した短編映画『父の結婚』を長編化。主人公の橙花(松本穂香)は銀座で働きながらも、仕事も結婚生活もうまくいかずモヤモヤする日々を送っていた。そんなある日、母の3回忌のため故郷の離島へ帰ったが、そこで待っていたのは母の服を着て生活している父・青治(板尾創路)。しかも青治はお調子者でどこか信用できない居候の男・和生(浜野謙太)と連れ子の娘ダリア(モトーラ世理奈)と「家族になろうと思う」と爆弾発言して…。 テレビドラマ版『この世界の片隅に』やauの「意識高すぎ高杉くん」CMなど、今最も注目が集まる若手女優・松本穂香が初主演を務めたほか、父親役に芸人、俳優、映画監督とマルチに活躍する板尾創路、父の再婚相手・和生役に「在日ファンク」ボーカルで俳優としても注目されるハマケンこと浜野謙太など、個性的なキャストが集結。さらに伊丹十三作品を数多く手がけてきた本多俊之が音楽を担当した。 撮影にあたっては伊豆諸島の新島、式根島でオールロケを敢行。穏やかな島を舞台に、性別も年齢も国籍も超えてつながろうとする人々の姿を明るくユーモラスに描いた話題作。